今や総合型選抜は、学力試験では測れない多面的な評価が行われる入試形式として、多くの受験生に選ばれています。その一方で、「併願はできるのか?」「専願との違いは?」といった不安や疑問を抱える方も少なくありません。
本記事では、総合型選抜における専願と併願の違いや、実際の募集要項の事例をもとに、具体的な併願戦略をわかりやすく解説します。出願前に知っておくべき基本から、成功につなげるための実践的なポイントまで、丁寧に整理していますので、併願を前提にした受験計画を立てたい方はぜひ参考にしてください。
総合型選抜における専願と併願の解釈を理解しよう
総合型選抜での専願と併願の意味はやや特殊と言えます。一般選抜における「専願」の概念は1ヶ所への出願を指しますが、総合型選抜の場合、複数校への出願自体は基本的には触れられていないものの、合格した際の入学の確約が求められる大学の学部・学科が存在します。このように、合格後の入学を確約するという前提で出願することが、総合型選抜における「専願」にあたります。
「専願」を求める志望先といえども複数の志望校への出願自体は禁止されていないため、総合型選抜独特の「専願」の意味合いを意識しつつ、自身に有利となる併願戦略が求められます。
ただ、志望校によって明確な意味がわかりにくい場合もあるため、併願戦略を検討する際は志望校の募集要項をしっかりと確認しましょう。
総合型選抜の専願と併願の見分け方
総合型選抜入試において、検討している志望先が専願なのか併願なのか、正確な情報を確認しておくことは非常に重要です。多くの場合、志望校の募集要項の「出願資格」の項目に掲載されています。以下、専願と併願での一般的な掲載例をまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
専願の場合
- 本学を第一志望とし、出願学科への入学を確約できるもの
- 本学を第一志望とし強く入学を希望するもので合格した場合は本学に入学することが条件
- 合格した場合は入学を確約できる者
上記のように、「合格した際の入学の確約」が明示されていることが特徴です。
併願可能な場合
- 第一志望として入学を志す者
- 本学で学ぶことを強く希望する者
- 他大学との併願が可能です
第一志望であることや、志望先での学びの強い希望などの文言が含まれていますが、「合格した際の入学の確約」までの言及がありません。
このような場合は「専願」という扱いではないため、複数の合格先を得た場合でも、自由に進学先を選択することが原則として可能となります。
判別が難しい場合
上記にて説明した内容での記載がほとんどですが、なかには専願なのか併願可能なのかの見極めが難しいと感じる場合もあります。
そのような場合は、志望校の事務局に直接質問してみることが最善です。正確な内容を明確に知ることができ、自信を持った併願戦略を立てることが可能になります。
募集要項で併願可否の具体事例を紹介
ここでは、実際の大学の学部・学科の募集要項に記載されている実際の事例を紹介していきます。
北海道大学 理学部 地球惑星科学科 フロンティア入試
【要件】
合格した場合、入学を確約できる者
北海道大学理学部地球惑星学科では、「合格した場合、入学を確約できる者」という記載があるため、専願と判断できます。
大阪大学 文学部 総合型選抜
【出願要件】
合格した場合に、必ず入学することを確約する者
大阪大学文学部では「必ず入学することを確約する者」という記載があるため、専願という判断になります。
九州大学 共生学部 総合型選抜Ⅰ
【出願資格】
・本学部の趣旨から,専門を決めて志願する本学の総合型選抜(文学部,教育学部,法学部,経済 学部経済・経営学科,理学部各学科,医学部保健学科,歯学部,工学部(航空宇宙工学科を除く), 芸術工学部各コース及び農学部),学校推薦型選抜(歯学部,芸術工学部),及び国際入試(教育学 部)との併願は認めません。
・本学部の総合型選抜に出願した場合でも、本学部の学校推薦型選抜、一般選抜、国際型入試に出願することができます。別途手続きを行ってください。
・本学部の総合型選抜に出願した場合でも、本学を含む国立大学の一般選抜に出願することができます。
九州大学共生学部では、合格後の入学の確約を求める文言がありません。九州大学内での総合型選抜での併願は認めていませんが、一般選抜を含めた他の入試方式での出願や、他の国立大学の一般選抜への出願を認める記載があります。
また、一見すると併願可能に見える場合も、国公立大学の総合型選抜には重要な注意点があります。国公立大学では一般的に、総合型選抜で合格し入学手続きを行った後は、特殊な事情がない限り入学辞退が認められないケースが多いのです。実際に入学手続きをすると、その後の国公立大学の受験資格が失われることになります。これは、学生募集要項の「留意事項」等に記載されていることが多い規定です。
つまり、出願時点では併願が可能でも、合格後に入学手続きをすれば事実上の「専願」となり、他の国公立大学を受験しても合格者になれません。この仕組みは、ほとんどの国公立大学の総合型選抜に共通しています。
したがって、このケースにおいては専願を求めておらず、併願は問題ないという判断が妥当と言えますが、入学手続き後の辞退が実質的に制限されるため「キープ校」としては機能しないことに注意する必要があります。詳細については、各大学の募集要項を丁寧に確認するか、大学の事務局へ直接確認することをおすすめします。
法政大学 文学部 日本文学科 総合型選抜入試
【出願資格】
本学科を第一志望とし、合格した場合は入学を確約できる者。
【専願について】
この方式は専願です。「合格した場合は入学を確約できる者」を出願資格とします。
法政大学文学部日本文学科では「合格した場合は入学を確約できる者」という記載があるだけでなく、明確に「この方式は専願」という表記もあり、確実に専願であるという判断になります。
関西学院大学 生命環境学部 学部特色入学試験
【出願資格】
合格した場合は本学に入学することが条件となります。
関西学院大学生命環境学部では、「合格した場合は本学に入学することが条件」という記載があるため、専願と判断できます。
総合型選抜の併願の基本と注意点
総合型選抜における併願パターンの基本
総合型選抜では、併願の可否が大学ごとに異なるため、基本的なパターンを把握しておくことが重要です。以下がその代表的な構成です。
【可能な併願戦略】
- 併願可能な大学+併願可能な大学
- 専願必須の大学+併願可能な大学
【不可能な併願戦略】
- 専願必須の大学+専願必須の大学
併願先を検討する際は、専願必須の大学は1校に絞り込み、その他は併願可能の大学を組み合わせることが重要であり、専願が必須の大学は自ずと第一志望となります。
総合型選抜と一般選抜の併願
総合型選抜と一般選抜は、併願が可能です。一般選抜は入学を確約するものではないため、合格しても辞退できます。ただし、総合型選抜で「入学の確約」が求められる大学に合格した場合は、その時点で進学が確定するため、一般選抜での合格校への進学はできなくなります。
ただし、注意したい例外があります。総合型選抜で合格して進学が決まっている大学の同一学部・学科の一般選抜を受験し、優秀な成績で合格すると、奨学金や学費減免などの経済的特典が得られるケースがあります。特に中堅・中位校ではこのような制度を設けている大学も少なくありません。経済的な支援を希望する場合は、総合型選抜で合格した後も一般選抜に挑戦する価値があるかもしれないので、各大学の制度を確認しておくと良いでしょう。
一方で、総合型選抜でも合格後に辞退が認められている大学であれば、あとから一般選抜でより志望度の高い大学に進学することも可能です。ただし、特に国公立大学の場合は重要な注意点があります。前述の九州大学の事例のように、多くの国公立大学では一般選抜を受験する前に総合型選抜の入学手続きを辞退する必要があります。つまり、総合型選抜の合格校を「キープ校」として確保しながら一般選抜にチャレンジするという戦略が取れないケースが多いのです。
このように、各大学の併願ルールや入学辞退に関する規定は非常に複雑で、大学によって異なります。各大学の併願ルールを事前に確認しておくことが大切です。
総合型選抜と学校推薦型選抜の併願
総合型選抜と学校推薦型選抜は、条件次第で併願が可能です。学校推薦型選抜では、多くの大学が「合格後は必ず入学すること」を出願条件にしているため、原則として辞退できません。
ただし、学校推薦型選抜でも併願を認めている場合や、総合型選抜側で合格後の辞退が可能な場合には、併願受験が現実的になります。各大学の募集要項を丁寧に確認し、自身の出願がルールに沿っているかどうかを事前に見極めておくことが重要です。
総合型選抜と指定校選抜の併願
学校型推薦選抜の中でも特に指定校推薦を利用する場合、基本的に併願はできません。推薦枠を得た時点でその大学への進学が前提となるため、総合型選抜との併願は現実的に不可能な選択となります。
ただし、いくつかの例外があります。系列大学への進学の場合、その大学に設置されておらず他大学に設置されている学部・学科を受験し、他大学が不合格になった場合にその系列大学への進学を確約できる条件で、各種の特別選抜や一般選抜との併願を認めているケースもあります。特に大学附属高校や系列高校に通っている人は、進路担当の先生に確認する価値があるでしょう。
また、校内選考で指定校推薦の対象にならなかった場合であれば、他大学の総合型選抜による出願は選択肢の一つとなります。進路の選択肢を広げるためにも、状況に応じた対応が求められます。
総合型選抜の併願戦略のポイント
志望学部をできるだけ揃える
併願戦略を立てる上で意識しておきたいのが、志望する学部の分野をできるだけ揃えるという視点です。まったく異なる学問領域を併願先として設定すると、それぞれの学部に合わせた志望理由書を一から作成しなければならず、相当な負担がかかります。志望理由書の内容は当然ながら学問分野に深く根ざすため、参考文献や論文の読み込み、テーマの掘り下げもそれぞれ個別に行う必要があります。
結果として、どれも中途半端になってしまうリスクが高まり、合格の可能性にも影響が出かねません。限られた時間の中で最善の準備を進めるには、学問分野を揃え、共通するテーマや関心軸を持って出願することが戦略として非常に有効です。どうしても複数分野にまたがる興味がある場合は、学際的な学びを提供している学部や専攻を検討するのも一つの方法でしょう。
試験内容がなるべく重なるようにする
併願校を選ぶ際は、試験内容に共通点があるかどうかにも目を向けておくことが重要です。試験形式がバラバラだと、それぞれに個別の対策が必要となり、時間も労力も想像以上にかかってしまいます。例えば、ある大学はグループディスカッションが中心、別の大学は専門的な内容の英語長文に基づいた小論文試験が課されるとなると、それぞれの形式に応じた準備が求められ、第一志望の対策に集中しきれなくなるリスクがあります。
複数校で、小論文や面接など共通する要素が含まれている試験をできる限り選ぶことで、対策を一元化しやすくなります。限られた時間を効率よく使い、準備の質を高めるためにも、試験内容に一貫性を持たせることは非常に有効な戦略です。
ただし、併願戦略にばかり目を向けすぎて、本来の志望校選びが揺らいでしまっては意味がありません。あくまでも「行きたい大学」の試験内容を軸に据えた上で、可能な範囲で効率的な対策が組めるように調整していく姿勢が大切です。
試験日程が被らないように注意する
併願先を選ぶ際には、いずれの回次の試験や面接の日程も重ならないように慎重に調整することが欠かせません。同じ週に複数の大学で選考が行われると、移動や準備に追われ心身ともに消耗してしまいます。その結果、本来の実力が発揮できず、悔いの残る結果になってしまうことも考えられます。
もちろん、タイトなスケジュールにも動じない強い精神力があるという自信があれば話は別ですが、一般的には余裕を持ったスケジューリングが安全です。出願の段階から各大学の選考日程を丁寧に確認し、無理のない流れで試験を受けられるよう事前に計画を立てておくことが、併願戦略を成功に導く鍵となります。
可能であれば第一志望の前に別の大学を受けてみる
大学受験は、多くの受験生にとって人生で数えるほどしかない貴重な機会です。そのため、最初の試験がいきなり第一志望校というケースも珍しくありません。ただし、本番の雰囲気や緊張感は、実際に経験してみないとわからない部分が多く、どれだけ準備をしていても、最初の一回は思うように力を発揮できないこともあります。
そのため、可能であれば第一志望の前に別の大学を一校受験してみて、本番の流れを体験しておくというのは有効な方法となります。面接や小論文などより現実的な空気感を実際に味わうことで、第一志望の際には気持ちに余裕が生まれ、より落ち着いて臨むことができるようになります。
もちろん、すべての受験生に必要というわけではありませんが、少しでも緊張しやすいと感じている人や、本番でのコンディションが気になる人にとっては、精神面での準備として大きな意味を持つ戦略となるでしょう。
総合型選抜の併願戦略 まとめ
総合型選抜における併願戦略を成功させるためには、まず「専願」という言葉の意味を正しく理解することが出発点となります。専願の場合は合格後の入学の確約が求められますが、求められない大学の学部・学科との併願は原則として問題ありません。
大学によって出願資格の表現は異なるため、募集要項を丁寧に読み解き、自分がどのような選抜形式を選びどう併願していくかを冷静に計画することが求められます。また、一般選抜や学校推薦型選抜、指定校推薦など、他の入試方式との関係性も併願戦略を考える上で無視できません。
併願先を検討する際は、学問領域や試験形式、日程の重なりなどにも注意を払い、効率よく準備ができる組み合わせを見つけることが理想です。精神的な余裕を保つためにも、第一志望の前に一度試験を経験しておくという方法も有効でしょう。
総合型選抜は自由度の高い入試形式だからこそ、事前の情報収集と戦略設計が合否を大きく左右します。もし自分一人での対策に不安を感じる場合は、併願戦略まで個別に対応してくれる塾を活用するのも一つの方法です。特に、小論文や面接だけでなく、共通テストや学科試験などが問われる場合もあるため、幅広い対策が可能な塾を選ぶことが重要です。志望校ごとの方針に合わせたアドバイスや書類作成のサポートを受けることで、より精度の高い戦略を立てることができるでしょう。自分にとって最も納得のいく進学ができるよう、丁寧に準備を進めていきましょう。