算数のテストで「いつも時間が足りない」「計算ミスで点数を落としてしまう」という悩みは、多くの中学生以下のお子さま、そして保護者様が直面する共通の課題です。特に中学受験を目指す場合、限られた時間内で膨大な量の問題を解く必要があり、計算のスピードと正確性は合否を分ける決定的な要素となります。
その鍵を握るのが「暗算力」です。暗算は単に頭の中で計算する技術ではありません。数の構造を理解し、効率的に処理する「ナンバーセンス(数感覚)」そのものです。本記事では、教育のプロフェッショナルとしての知見から、お子さまが一生モノの武器にできる暗算のコツと、その習得を支える家庭での学習法、さらには個別指導が果たす役割について詳しく解説します。
この記事の目次
なぜ今、小学生に「暗算力」が求められるのか
算数の学習において「筆算を丁寧に書くこと」は基本ですが、高学年になるにつれて、すべてを筆算に頼るスタイルには限界が訪れます。なぜ今、改めて暗算の重要性が高まっているのでしょうか。
中学受験における「時間」との戦い
近年の中学受験算数は、思考力を問う難問が増加傾向にありますが、その土台となる計算量も決して減ってはいません。むしろ、条件整理や試行錯誤に時間を割くために、単純な計算処理にかけられる時間は年々短くなっています。
例えば、入試本番で45分から50分の試験時間がある場合、前半の計算・一行問題にかけられる時間は10分程度。ここで暗算を駆使して「1問15秒」の短縮を積み重ねることができれば、後半の記述問題や図形問題に5分以上の余剰時間を生み出すことが可能です。この「見直しの5分」が、合格ラインを突破する1点、2点を生み出します。
算数嫌いを克服する「数の処理能力」
文部科学省の調査(国立教育政策研究所の学習到達度調査等)を紐解くと、算数に対して苦手意識を持つお子さまの多くが「計算の遅さ」や「計算ミスの多さ」を理由に挙げています。
計算が速くなるということは、それだけで「自分は算数が得意だ」という自信に直結します。暗算でスラスラと答えが出せる快感は、算数という教科に対するポジティブな姿勢を育み、結果として自学自習の意欲を高める効果があるのです。
文部科学省の学習指導要領と「思考力」の土台
新学習指導要領では「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力」の育成が重視されています。しかし、高度な思考を行うためには、脳の「ワーキングメモリ(一時的な記憶領域)」を空けておく必要があります。
計算を無意識レベル(暗算)で行えるようになると、脳のリソースを「問題の構造を理解すること」や「解法を組み立てること」に100%注ぐことができるようになります。つまり、暗算力は思考力を支えるインフラ(土台)なのです。
【実践】今日から使える!暗算を劇的に速くする5つのコツ

暗算は天性の才能ではありません。数の性質を理解し、適切な「解き方」を選択するトレーニングを積めば、どのお子さまも必ず習得できます。ここでは、具体的な5つのテクニックをご紹介します。
1.10や100の「キリの良い数字」を作る補数の活用
暗算の基本は、いかにして「0」を作るかにあります。
例えば、「48 + 77」を計算する場合、左から順に足すのではなく、キリの良い数字を目指します。
- 考え方: 48に2を足せば50になる。
- プロセス: 48 + (2 + 75) = 50 + 75 = 125
このように、数字を分解して「補数(足して10や100になる数)」を見つける習慣をつけることで、繰り上がりのミスを劇的に減らすことができます。
2.分配法則を視覚的に理解する
掛け算において、複雑な数字をそのまま掛けようとするとミスが誘発されます。
例えば、「32 × 25」という計算。
- 考え方: 25は「100 ÷ 4」である、あるいは32は「8 × 4」であると分解します。
- プロセス1: (32 ÷ 4) × 100 = 8 × 100 = 800
- プロセス2: (30 + 2) × 25 = 750 + 50 = 800
数字を「固まり」として捉え、切り分けたり組み合わせたりする感覚を養うことが大切です。
3.計算の順番を入れ替える「結合法則」の徹底
「前から順番に解かなければならない」という思い込みを外すだけで、計算は楽になります。
- 例: 125 × 7 × 8
これを前から順に計算すると、「875 × 8」という複雑な筆算が必要になります。しかし、「125 × 8 = 1000」であることを知っていれば、一瞬で答えが「7000」だとわかります。
「どの組み合わせが一番簡単か」をまず探す癖をつけることが、暗算マスターへの近道です。
4.インド式計算の要素:左(上の位)から計算する
筆算は右(下の位)から計算しますが、暗算は「左(上の位)」から行う方が効率的です。
例えば、「63 + 28」を計算する際、
- まず「60 + 20 = 80」と見積もる。
- 次に「3 + 8 = 11」を足す。
- 合計で「91」。
この「概数(およその数)を先に掴む」手法は、計算ミスをした際にも「答えが桁違いになる」といった大きなミスを未然に防ぐ感覚を養います。
5.分母と分子の性質を利用した約分のスピードアップ
高学年の算数や中学数学の「y=ax^2」といった関数分野では、分数の処理が頻出します。
計算の途中で大きな数字を作る前に、徹底的に約分を行うのが鉄則です。
「2で割れる(偶数)」「5で割れる(下一桁が0か5)」「3で割れる(各位の和が3の倍数)」といった判定法を暗算で活用できるようになると、複雑な式が驚くほどシンプルになります。
覚えておくと一生役立つ「計算の暗記項目」
暗算力を高めるためには、一部の頻出する計算結果を「知識」として持っておくことも重要です。これは「暗記」というよりも「語彙を増やす」感覚に近いものです。
2ケタの平方数(11×11〜19×19)
特に中学受験において、平方数(同じ数を2回掛ける)の知識は必須です。
- 11 × 11 = 121
- 12 × 12 = 144
- 13 × 13 = 169
- 15 × 15 = 225
これらを瞬時に引き出せるようになると、面積の問題や三平方の定理に関連する問題(中学数学の先取り等)で圧倒的に有利になります。
分数と小数の変換表
「0.125 = 1÷8」「0.375 = 3÷8」「0.625 = 5÷8」「0.875 = 7÷8」
この「0.125系」の変換は、円の面積や割合の計算で頻発します。小数で計算すると筆算が必要になりますが、分数に置き換えた瞬間に暗算で処理できるようになるケースが非常に多いのです。
3.14(円周率)の掛け算早見表
中学受験生にとって、「3.14」に1から9までの数字を掛けた値は「常識」として定着させておくべきものです。
例えば、「3.14 × 8 = 25.12」をその都度筆算していては、平面図形の問題で太刀打ちできません。これらを覚えることで、計算ミスが減るだけでなく、問題の中に現れる数字から「あ、これはあの計算の結果だ」と解法を逆算できるようになります。
お子さまを「暗算嫌い」にさせないための保護者様の接し方

暗算力を鍛えようとして、過度な計算ドリルを強いたり、スピードばかりを要求したりすることは逆効果になりかねません。保護者様には、お子さまが「数を楽しむ」ための環境作りをお願いしたいと考えています。
筆算を否定せず、暗算の「使い分け」を教える
「暗算しなさい!」と強制すると、お子さまはミスを恐れて隠れて指を使ったり、算数そのものが苦痛になったりします。
大切なのは「ここは暗算で楽をしよう」「ここは複雑だから、丁寧な筆算で確実に得点しよう」という「戦略的な使い分け」を教えることです。暗算は楽をするための「武器」であり、ルールではないことを伝えてあげてください。
日常生活の中で「数」に触れる機会を作る
暗算力は、机の上以外でも鍛えることができます。
- スーパーでの買い物: 「3点買って1000円でお釣りはいくらになるかな?」
- 車のナンバープレート: 「4つの数字を足したり引いたりして10にできるかな?(テンパズル)」
- 移動時間: 「目的地まであと15km、時速30kmだと何分かかる?」
こうした日常の些細な問いかけが、お子さまの脳内に「数のスクリーン」を形成し、暗算の土台を作ります。
小さな「速くなった!」を褒めて自己肯定感を育む
昨日は30秒かかった計算が、今日は25秒でできた。その5秒の進化を、ぜひ見逃さずに褒めてあげてください。
算数は、正解か不正解かがはっきり出る教科です。だからこそ、結果だけでなく「工夫して解こうとした姿勢」を評価することで、お子さまは自発的に効率的な解法を探すようになります。
独学での限界と「個別指導」が暗算力を最大化させる理由
暗算のコツを知っていても、それを実際のテストで活用できるようになるまでには「練習」と「適切なフィードバック」が必要です。独学や集団授業では、なかなか手が届かない部分をサポートできるのが個別指導の強みです。
一人ひとりの「つまずきポイント」を特定する
計算ミスには必ず原因があります。「繰り上がりを忘れる」「0の書き方が乱雑で6に見間違える」「補数のペアを勘違いしている」など、お子さま一人ひとりによって癖は異なります。
個別指導では、プロの講師がお子さまが計算する「プロセス(筆跡や指の動き、詰まるタイミング)」を隣で観察します。どこで思考が止まっているかを見極め、その場で適切なアドバイスを行うことで、無駄のない改善が可能になります。
お子さま専用の「計算練習メニュー」の作成
市販の計算ドリルは網羅的ですが、お子さまが既にマスターしている部分に時間を使いすぎてしまう欠点もあります。
個別指導では、志望校の頻出パターンや、お子さまが苦手とする特定の数字の組み合わせに絞った「オーダーメイドの計算メニュー」を提供できます。最短ルートで「計算の達人」を目指すには、この最適化が欠かせません。
最新の教育動向と「中高一貫校」を見据えた指導
令和の教育現場では、単純な計算力以上に「その計算をどう活用するか」が問われています。
例えば、中学以降で学ぶ「1次関数」や、高校での「y=ax^2」といった単元において、小学生のうちに培った暗算力(数の感覚)があるお子さまは、グラフの動きを直感的に理解できるようになります。個別指導サービスでは、目先のテスト対策だけでなく、将来の大学受験まで見据えた「一生モノの算数力」を育む伴走者として、保護者様とお子さまをサポートします。
まとめ
暗算力は、お子さまの学習における「エンジン」のようなものです。エンジンの性能が高まれば、どんなに険しい中学受験の道も、力強く、そして余裕を持って進むことができるようになります。
今回ご紹介した暗算のコツは、どれも今日から始められるものばかりです。しかし、大切なのは「知っている」ことではなく「活用できる」ようになることです。もし、お子さまが計算に苦手意識を持っていたり、なかなかスピードが上がらずに苦しんでいたりする場合は、一度プロの視点を取り入れてみることをお勧めします。
お子さまが「算数って楽しい!」「計算が得意だ!」と思えるようになる瞬間を、私たちは全力でサポートいたします。
まずは、お子さまの現在の計算の仕方を一緒に観察することから始めてみませんか。日々の小さな工夫と適切な指導があれば、お子さまの可能性はどこまでも広がっていきます。